労災による傷病で療養(補償)給付を受けていた方が、その傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行っても、その医療効果が期待できなくなった状態を、労災保険では「治癒(症状固定)」と呼びます。一般的に「治癒」というと、傷病が治り、事故前の状態に戻ったことをイメージするかもしれませんが、ここでいう治癒(症状固定)は、必ずしも以前の健康な状態に戻ること意味するのではないため、医学の知識がない私たち素人には、その判断は分かりづらい場合もあります。自身の「治った」との感覚とかけ離れた場合もあり得るかもしれません。
しかし「治癒(症状固定)」の判断は労災請求において非常に重要で、後のいくつかの事柄に影響を与えます。例えば・・・①治癒(症状固定)が認められると、通常これまで受けていた療養(補償)給付や休業(補償)給を受けることができなくなる。〔治癒(症状固定)=治療終了であり、療養も休業も必要なくなると考えられるから。〕②症状固定時に後遺障害が認められた場合には障害(補償)給付を受給できる可能性がある。(なお障害(補償)給付の請求時効は治癒(症状固定)日の翌日から5年である。)などが挙げられます。
治癒(症状固定)は医学的根拠に基づき医師が決定することになりますが、症状固定の適切な判断のためには被災者の協力が不可欠です。日頃から主治医に自身の症状をしっかりと伝え、症状固定が後の給付や請求にも影響があることを頭の片隅に置きながら治療に専念頂ければと思います。
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治癒(症状固定)
2021年11月30日 名古屋丸の内本部事務所社労士 大内 直子