弁護士の深尾至と申します。前回は、過労死の業務上外認定についてお話いたしましたが,今回は,過労自殺の業務上外認定について触れていきます。
過労が原因でうつ病を発症し,自殺に至った場合には,過重労働によって過労死が発生した場合と同様に、ご遺族としては、過労自殺が業務上発生したと認められる限り,労災法の各種給付を受けることができます(なお,従前,自殺が故意に死亡することであることから,一律に労災法の各種給付の対象外となるのではないかとの議論がありましたが,現在は克服された議論といえます。)。
過労死の業務上外認定については、「心理的負荷による精神障害の認定基準について」との行政通達があり、この通達に従って過労自殺が業務上発生したかどうかが判断されます。
通達は、①所定の疾病を発症していること,②所定の疾病の発病前概ね6か月間に,業務による強い心理的負荷が認められること、③業務以外の心理的負荷及び個体的要因により所定の疾病を発症したとは認められないこと,との3要件を満たす場合には,業務上認定するものとしています。
そのうち,②については,所定の疾病の発病前概ね6か月間に、所定の疾病の発病に関与したと考えられる業務によるどのような出来事があり、また、その後の状況がどのようなものであったのかを具体的に把握し、それらによる心理的負荷の強度はどの程度であるかについて、別途定められた「業務による心理的負荷評価表」に基づいて評価されることとなります。
過労自殺が業務上認定されなかった場合には、ご遺族としては、行政訴訟をもって不支給処分の取消を求めることが考えられることは,過労死の場合と同様です。裁判例において、行政通達は裁判所を拘束するものではないとして、通達の基準に必ずしも該当しない場合にも、業務上認定をする例がみられる点も,過労死の場合と同様です。